サイロ

日記と音楽

2018年個人的年間ベストアルバム10枚

 年間ベストのように1年を包括する記事を書く際には、少しでも自分の中でその年というものを咀嚼して「今年はこれこれこういう年だったから音楽もそれを現したものが多かったですね」なんて気の利いたことを言ってやりてぇ、などとイヤラシイ考えが湧いてくるがついぞそういうことがうまくいった覚えがない。そもそも自分の愛好するものを発表してほかの誰かにも聴いてもらいたいという下心からくる企画なのだから、せめておもしろおかしくやって楽しんでもらうのが筋というものではないかという気がする。

 

 

 

 小袋成彬-分離派の夏

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 今年の音楽について総評を述べる際に順位付けや好き嫌いに関わらず、このアルバムだけは外したくないと思ったものがあるとするならばこれである。Frank Oceanの『Blonde』に代表されるような、ミュージシャン自身の非常にパーソナルな部分から生まれたR&Bがついに日本からも発表され、そして宣伝を打たれて広く受け入れられたことに文化の爛熟を感じずにはいられない。アルバムの構成も彼個人を語ることに特化されており、友人のインタビューを通して周縁から彼の人間性を掘り下げていくことに専念されている。個人的なベストトラックは13曲目『門出』

 

 The National-Boxer Live In Brussels

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 The Nationalの代表作であるBoxerのライブ盤。オリジナルアルバムの素晴らしさはそのままに、The Nationalのライブの熱気とBoxerの完全再現を目の当たりにできた観客の興奮が詰め込まれている。かつてFake Enpireがオバマ大統領の遊説の際に使用された彼らが2018年にこのアルバムのライブ盤を発表したことに特別なメッセージを感じずにはいられない。

 

 cero-POLY LIFE MULTI SOUL

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 前作Obscure Rideからこんな変化を遂げるとは思ってもみなかった。『街の報せ』やアルバムからの先行シングルとなった『魚の骨 鳥の羽根』からジャズ・ファンク色の強いものになるとは予想していたが、いざ蓋を開けてみれば挑戦的でありながら難解ではなく、しかし聴きこめば聴きこむほどに工夫が凝らされた素晴らしいアルバムであることがわかる。表題曲であるPoly Life Multi Soulは間違いなく今年最高のキラーチューン。

 

 Nine Inch Nails-Bad Witch

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 最新EPは打ち込みが強くなり、RAMMSTEINに代表されるNeue Deutsche Härteに接近した。ライブでの反応を見た限りでは往年のファンにはあまり好印象をもって迎えられていないようだが、これまでインダストリアルロックの第一線を走り続けてきたNine Inch Nailsがジャンルそのものを再生産する試みを持って素晴らしい曲を6曲も作ったことに感動しかない。フルアルバムでのリリースが一刻も早く期待される作品となった。

 

 Arctic Monkeys-Tranquility Base Hotel & Casino

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 前作AMはこれまでのArctic Monkeysからは考えられないような(これほどこのバンドに対して使い古された言葉があるだろうか、と思ってしまった)スローテンポのR&Bアルバムであり彼らに再び栄光をもたらしたが、驚くべきことに今作ではそれを更に推し進めて究めてシンプルな歌モノに到達した。フロントマンのAlexがリーゼントヘアを作ってヒゲを生やしはじめたときから既にBeatles的なロックンロール像から離れていることは感じていたが、まさかこれほどかつてのバンドイメージとかけ離れたアルバムを作るとは考えていなかったため、本当にこのバンドには驚かされる。とはいえその試みに一切の失敗はなく、本アルバムは彼らのディスコグラフィの中でも飛びぬけて素晴らしい「歌」を楽しめるアルバムになった。

 

 ギリシャラブ-(冬の)路上

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 キャリア初のフルアルバムとなった前作、そしてそこから更にサイケデリック色を強めた今作とひとつずつ確実にパワーアップしていく京都のインディロックバンド。耳に残る印象深いギターワークとサイケ感をより強める新しいドラムメンバーによるコーラス、そしてさらに切れ味を増したフロントマン天川による作詞が最高。「君らは老いたウェルテルのように 虚ろに生きるがいい」「死に向かって走る一陣の風に変わって 少年は磨り減っていった」なんて強烈な歌詞を今ほかに誰が書けるだろう。

 

 JPEGMAFIA-Veteran

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 Bandcampにおいて投げ銭で配信されているため、まだ聴いていない方はいますぐ購入して聴いてほしい。トリップホップの浮遊感、インダストリアルの攻撃性、グリッチ的なリズムパターンと変幻自在のラップ。これほど多様な音楽的バックボーンを持ち、なおかつそれを一枚のアルバムとしてまとめあげる実力が素晴らしい。また「I need a bitch with long hair like Myke C-Town (Yeah?)」等、随所に強烈なパンチラインをぶち込んでくる詩人としての才能も見落とせないだろう。スタイルとしてはDanny Brownのような白人文化との折衷も感じることができ、I Cannot Fucking Wait Until Morrissey Diesといった感動的なタイトルからもロックミュージックから少なくない影響を感じる。それにしても最高のタイトル。

 

 Mythic Sunship-Another Shape of Psychedelic Music

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 アルバム1曲目『Resolution』冒頭のサックスにはジャズを感じるが、実際にはこのアルバムは強力なサイケデリックロックであり、前述のそれはひとつのアプローチでしかないことがわかる。静寂の中に響くサックスと断続的に反復するドラムのフィル、やがて立ち上がっていくギターの旋律はまるで朝靄のかかる湖畔のように美しいが、14分と長尺のこの曲はやがてねじれながらその本性を現し中天の太陽のようなエネルギーを放ちだす。全6曲のため一瞬EPと疑いそうになるがそのうち4曲が10分越えの大作であり、鑑賞を続けるほどにこのアルバムとリスナーの体力勝負が盛り上がる。

 

 Jonny Greenwood-Phantom Thread (Original Motion Picture Soundtrack)

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 RadioheadJonny Greenwoodによるサウンドトラック。P.T. Andersonとのタッグはこれで4作目となるが、これまでの作品が現代音楽的な実験を帯びた作品だったのに対して今作は究めて格調高いクラシカルミュージックとなり、彼の声楽的なセンスを最大限に発揮したものとなっている。そしてそこにはRadioheadのThe King Of LimbsやA Moon Shaped Poolで見られたような美しい旋律が随所に現れ、改めて同バンドにおける彼の存在感の大きさとその素晴らしい才能に驚かされる。

 

 Sons Of Kemet-Your Queen Is A Reptile

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 アフロジャズとかジャズファンクとかダブとかUKジャズだとか、このアルバムをカテゴライズする言葉は無限にあるだろうが、そんなもの言葉は再生した瞬間に彼方へと吹き飛ばされる。怪しげなサックスと民族的なリズムのループ、そしてポエトリーリーディングのような不穏な歌唱が繰り返され、まるで呪いにかけられたようにリスナーを躍らせる力がある。架空の女王を創り出して彼女を崇めたてるというコンセプトもUKらしさを感じさせるひねくれ具合。個人的ベストトラックであるMy Queen Is Harriet Tubmanのリズムが生み出すスピード感と、そこにガソリンをぶち込むようなサックスの名演は一聴の価値がある。

 

 

 以上の10作品。ジャンルも何もバラバラになってしまったが、今年ぼくが特に素晴らしいと感じたアルバムを列挙した。多くの人が同じテーマで記事をかいたりSNSで発表する現在ではぼくのリストなど大して物珍しい作品でもないが、少しでも気になったものがあればぜひ聞いてほしいと感じる。